SSブログ
本など ブログトップ

中国共産党の生まれた荒野 [本など]


ワイルド・スワン 上 (1) (講談社文庫 ち 4-1)

ワイルド・スワン 上 (1) (講談社文庫 ち 4-1)

  • 作者: ユン・チアン
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: 文庫



まだ上巻の半分までしか読んでないんですけど、なんだかこう、読んでいるうちにタイトルだけ頭に浮かんできて、忘れんうちにそれだけ書いとこう、という感じの見切り発車で行きます。読んでいてものすごく印象に残るのは著者の祖母、曾祖母たちの女性が社会的にものすごく抑圧されていたというところです。少しネタばれになりますが、著者の祖母が幼少の時分に曾祖母の手により纏足にされる場面が出てきます。ものすごく痛そうです。そこまでしないと嫁に行けない。纏足が中途半端であったがために結婚が破談になった女性は、幼少のころ心を鬼にしなかった母親を恨む。民主主義の島国で育った私の感覚からは、想像もつかなかった世界が描写されています。清朝の弱体化から軍閥の割拠の時代へ、さらに日本軍による搾取を経て、戦後に進駐してきたロシア軍の略奪、腐敗しきった国民党の無策、血みどろの国共内戦。人々は様々な時の権力者によって翻弄されます。

そんな文脈の中で共産党の話が始まったとき、読みながら少し「ホッと」しました。それまでのどの権力者たちより、まともに見えたからです。著者の文章を読む限り、それまでのどの権力者より正義があり、人情味があります。ルールを守り、略奪、強姦をせず、男女の平等を標ぼうしていました。文章を読んでさえこうなのですから、もし本当に私がその場で生活をしていたらどうだったでしょうか。たぶん喜んで共産党員になったかもしれません。

そういえば、共産党の出発点っていうのは中国に限らず、伝統的な抑圧、持てるものの持たざるものへの搾取に対する反発だったと思います。ドイツ系ユダヤ人のマルクスは、工業先進国であるイギリスで搾取されている労働者達の状態にショックを受けて、エンゲルスの資金的援助のもとマンチェスターで「資本論」を書いたと聞いたことがあります。その動機自体は間違いのない正義でしょう。

当時、現状に絶望した多くの中国人知識層がその正義に希望を見出したのかなと思いました。まだ上巻の半分までしか読んでいないため、共産党が政権を握ったあたりまでの読後感ですので中途半端ですが、とにかくそれまでの権力者に比べて、共産党は「まだマシ」どころか「ものすごくマシ」だったということが、中国国内で広範に受け入れられた理由なのだと思います。

マルクス:Marx

新自由主義とは何か? [本など]

という問いに対して、一つの明確な答えを示している文章があるのでここで紹介したい。

アサインメントがらみで「新自由主義って何か?」ということに対していろいろと悶々としていたのだが、佐貫浩氏の著による「新自由主義と教育改革」を読んで、こんがらがっていた糸が少しほぐれたような気がした。あまりにも明確に過ぎる文章というのは多少バイアスがかかっているところもあるので、気をつけたほうがいいのだが、「たたき台」としてはすばらしいのでは、と考える。以下、本文をそのまま書き写す。


1 新自由主義の論理

(1)新自由主義とは何か

新自由主義とは一般に次のように把握されている。資本主義の初期的な発展期に採用された古典的な自由主義が、その後の展開のなかで、資本主義的市場での勝利、資本家の勝利、「強い市民」の勝利という帰結をもたらした。それに対し、基本的人権を市民革命によって理念上獲得した広範な勤労大衆が、労働組合や労働者政党などにより政治的な勢力として結集されるなかで、資本の横暴を規制し、市場競争に規制をかけ、人権と生存権実現のための規制を設け、福祉的制度をつくり、すべての国民に一定水準の生活を保障する社会制度をつくり出した。西欧の福祉国家体制はその一つの典型であった。しかし1970年代後半以降、多国籍化した巨大資本は、グローバルな世界制覇戦略に乗り出し、そのための競争力を獲得するために、一つには自国内での大資本に対する、規制や市場に対する規制、累進的な税制の撤廃などによって新たな独占的支配力を拡大し、もう一つにはグローバルな世界市場をつくり出すために、各国の独自規制を廃止させ、世界中でより自由に利益獲得行動を展開できるよう、強力な圧力をかけ始めたのである。

したがって、それは、自由主義批判の上に形成されてきた民主主義制度や理念、企業活動への一定の規制(たとえば労働時間の制限や解雇への規制など)、福祉的な政策、弱者救済の特別措置、「結果の平等」を意図した諸制度などの今日の社会的到達点を攻撃することを直接の目的とした「新しい」自由主義である。同時にまた、それぞれの国家が実施している自国経済の育成、自国労働者の人権の保護をはかるためのさまざまな経済規制の廃止を求めるものであり、強者に有利な「自由」な競争市場へそれらの国を「開放」させようとする新たな「自由主義」である。

そのため新自由主義は、福祉や諸規制を行なう行政部門と公務労働部門を縮小することと、各種の「規制緩和」を主張する。しかし、一方で巨大資本の国際競争力を支えるために国家財政をつぎ込み、またグローバルな市場秩序を維持・管理するための強力な軍事力や警察機構を必要とする。今日の日本政府の政策が、そのような構造を強めていることは、誰の目にも明らかとなりつつある。


氏は本書の中で、新自由主義的政策に対して非常に強硬な「反対」の立場を明らかにしている。こちらの文章を読む上ではそのことを踏まえる必要があるだろう。氏は2002年に「イギリスの教育改革と日本」という本を、イギリスで研究したことをもとに書いている。そちらの中で、氏はサッチャー政権から引き続く新自由主義的政策がいかに教育政策に影響を及ぼしているのかについてを説明し、日本との比較を行っている。こちらの本ではあまり新自由主義に対しての態度をそれほど前面にはだしていなかった。しかし、本著を読む限り、明らかに態度を硬化させている。実際に日本での状況を目の当たりにして危機感を募らせているのだろう。またこちらをまとめるに当たって参考にされている著書が、「現代資本主義と新自由主義の暴走」(二宮厚美氏、新日本出版、1999年)とまた非常に新自由主義に対してアンチな題名の文章なのでそこらへんも気をつけたほうがいいのかなとも思う(と言ってそちらの本は読んでないので、なんともいえないのだが)。

しかし、そのバイアスを考慮してもなお、日本における政策作成者達の多数が持っている意図を見事に説明しているのかなと思う。これによって現在進んでいる、教育の「民営化」の流れを説明することも出来る。現在私がアサインメントとして取り組んでいるのは、この新自由主義がどの程度、2000年度の学校教育法施行規則の一部改正による公立学校長の資格要件の緩和(いわゆる「民間人校長」の出現)に影響を及ぼしているのか、もしくはいないのかについて書かなきゃならんので、こういった明確な意見を日本語で読めると非常に助かる。

後、これは余談だが、世界的な「市場秩序の維持・管理のための強力な軍事力や警察機構」という一節は、あっなるほど、と思った。もしかしたら政治学をやっている人々にとっては当然の前提なのかもしれないが、政治関係でも軍事とかそっちのほうは、ズブの素人の私にとっては目からウロコが落ちる思いだったのだ。

新自由主義と教育改革―なぜ、教育基本法「改正」なのか

新自由主義と教育改革―なぜ、教育基本法「改正」なのか

  • 作者: 佐貫 浩
  • 出版社/メーカー: 旬報社
  • 発売日: 2003/12
  • メディア: 単行本

現代資本主義と新自由主義の暴走

現代資本主義と新自由主義の暴走

  • 作者: 二宮 厚美
  • 出版社/メーカー: 新日本出版社
  • 発売日: 1999/12
  • メディア: 単行本

 

新自由主義:neo-liberalism


ジョークです [本など]

問い:グローバリズムとは何のことか?

答え:イギリスの王室にいた女性がエジプト人と恋に落ち、パリでドイツ製の車に乗っていたところを日本製のバイクに乗っかったフランス人のパパラッチに追い回され、その結果起きた事故のこと。

上は、最近読んだ早坂 隆 著「世界の日本人ジョーク集」の中に入ってたジョークの一つ。国民性やら民族性を笑いの種にするジョークをエスニックジョークというが、何かと日本人の性質も笑いの種になるらしく、それを海外生活経験の豊富な著者がまとめたもの。日本人ジョーク集と名を売ってあるが、日本人以外のエスニックジョークもいろいろ紹介されており、上のジョークはその中の一つだ。ただ単にジョークを紹介するだけでなく本書は、ジョークが何を前提としてなされるのかについて結構マジメに説明しているのでなかなか面白い。

エスニックジョークのカテゴリーに電球ジョークというのがあり、以前のエントリーで紹介したことがあるが、それはポーランド系アメリカ人を題材にしたものが発祥らしい。ちなみに以下がそのジョーク。

問い:切れてしまった電球を新しいものに取り替えるのに、何人のポーランド人が必要だろうか?

答え:五人。一人が椅子の上に立って電球を持ち、四人が椅子を回す。

 

本書は世界の中でネタに使われている日本人の国民性について主に取り扱っているわけだが、なんとなく自国の国民性をこんな風に笑いの種にされているのかと思うとあんまり笑えない。ここであまり笑い飛ばせないあたりが私の日本人としての国民性なのかもしれないとも思う。というわけで、あんまり面白くないので、日本人をネタにしたジョークは紹介しないでおきます。どうしても知りたい人は買うべし。

世界の日本人ジョーク集

世界の日本人ジョーク集

  • 作者: 早坂 隆
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2006/01
  • メディア: 新書

ポーランド人:Polish


「美しき日本のうた」 [本など]

 
作者: 野ばら社編集部
出版社/メーカー: 野ばら社
発売日: 1995/05 メディア: 楽譜

私がイギリスの大学院に行くということで、祖父のところに「1、2年ほど日本からいなくなります」と挨拶に出向いたところ、祖父から渡された本がコレ。コレを見て日本の心を時々思い出すべし、ということだと思う。中にはみんながどこかで聞いたことがあるような童謡、民謡、学生歌が楽譜つきで掲載されている。あまりにも遍在的過ぎて、わざわざ音符つきで見るのは気恥ずかしいほどのものもある。例えば以下の唄なんかどうだろう。

「春が来た」 高野辰之 作詞   岡野貞一 作曲

1、春が来た 春が来た

  どこに来た

  山に来た 里に来た

  野にも来た

 

2、花が咲く 花が咲く

  どこに咲く

  山に咲く 里に咲く

  野にも咲く

 

3、鳥が鳴く 鳥が鳴く

  どこで鳴く

  山で鳴く 里で鳴く

  野でも鳴く

春の訪れを、非常にシンプルな日本語で謳歌しているわけなんだが、あまりにも当たり前すぎてそれを口ずさむのは気恥ずかしささえも覚える。でもよーく自分の心の声を聞いてみるとその唄の主旨に心から賛同をしてしまうわけだ。すなわち、冬の寒さを耐え忍んだ後の春の訪れに心を躍らせる、という心の動きに一人の日本人として深く共感を抱く。しかし、その喜びはほんの少しの悲しさを秘めている。なぜなら、その春のはかなさをしっているから。この心の機微は、時代を超えて日本人の心にあるのではないだろうか。

心の機微:subtleties of human nature


森で道に迷ったら [本など]

ロンドンに行くのに失敗し、しょうがないからこの2日を何に充てるか思案した結果「デカルト」を読むことにしたと昨日書いた。この「デカルト」という本は、日本から持ってきている私の本の中で最も高尚な本だ、すなわち難しい。1ページ読むのにものすごい精神と思考の努力を要求する。なもんで、3、4ヶ月前にも「今度こそは読んでやる」と思って1ページ目を読んだのち、「やっぱり、今度にしよう」と延期を決め込んだという経緯をもつ。

その本と今格闘しているのだが、そしてもちろんカメの歩みなのだが、何とか読み進めている。今だ本論には入っておらず、デカルトの思想の何が分かっているというわけではないのだが、野田又夫氏による「デカルトの生涯と思想」という部分を読んでいて、印象深かった言葉があるので紹介しておく。

「森の中で道を失った旅人はどうすればよいか。一方向を決めて遮二無二そのほうへ進むよりほかはない。偶然そう決めたのであっても、途中で方向を変えないほうがよい。そうして森を抜け出ることがたいせつなので、その結果望まぬ場所へでることになっても、森の中で迷っているよりはましである。」(「方法序説」より、直訳の文を野田氏が要約されたもの)

「最も大きな心は、最も大きな徳行をなしうるとともに、最も大きな悪行もをもなしうるのであり、ゆっくりとしか歩かない人でも、もしいつもまっすぐな途をとるならば、走る人がまっすぐな途をそれる場合よりも、はるかに先へ進みうるのである。」(「方法序説」より)

未来に起こる事柄に対して完全にわかることはできない。だからみんな不安になるのだと思う。不安から完全に自由な人というのを少なくとも私は知らない。そして、おそらくどの時代においてもそうであったのだと思う。すなわち、デカルトという17世紀の哲学者でさえも「森の中で迷う」事はあったのだろう(ここで言う「森に迷う」ということを実際に経験したのか、はたまた比ゆ的に用いられているのかは分からないが)。

そして、彼の言葉は時代や国を越えて、我々に示唆的である。価値観の多様化している現在、最終的に何が正しいのかを判断するのは個人の「意思」にゆだねられていると思う。そして、「意思」というのは非常にその維持が難しい、周りの状況、意見、お金等によってぶれる。しかし、一度こうと決めた後は、一度その自分が設定したところまで登りきってしまうことが重要なのだと思う。そしてその高みからの眺めがもし、自分が思い描いていたものとは違っていたとしても、そこまでのぼりきったということは紛れもない事実だし、だからこそ出てくる自信、そしてその自信から来る他人に対する説得力というものがあるのだと思う。

それともう一つ思ったのは、場所は違えど人間は似たような人生哲学を考えるのだな、ということ。例えば「方法序説」からの二つ目の引用「最も大きな心は~」で始まる文章の後半部は、日本で有名な「ウサギとカメ」の寓話まんまだよね。

意思:will


「地球連邦の興亡」 [本など]

佐藤大輔という作家が書いているこの本が好きだ。あまりにもすきすぎて日本から持ってきている。要はファンタジーSF小説なんだが非常にディテールが凝っており、頭をつかう。この本を買ったのは5年ほど前なのだが、一度読んでから今までに4回は全巻を読み直している。この本を読み直すごとに、以前は分からなかった心情の機微や状況設定の緻密さに触れ、面白みが深まる。自分の成長を読書の理解に投影することができる。私が一番好きな小説だ。良かったらどうぞ。

地球連邦の興亡〈4〉さらば地球の旗よ

地球連邦の興亡〈4〉さらば地球の旗よ

  • 作者: 佐藤 大輔
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2000/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


本など ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。